相原正明写真夜話Ⅲ

どうしたら写真が上手に撮れるか?

 ワークショップ、写真展の会場あるいはロケ先でも一番質問されるのが「どうしたら写真が上手に撮れるか?」 
実はこの答えは一番簡単で一番難しい。最初に難しい理由の方から説明したい。この質問は大気中でどうしたら、呼吸ができますか?というぐらいに当たり前すぎて難しい。特に僕は直感とひらめきで撮る方なので、内緒にするつもりは毛頭ないが教えられない。なので、どうしたら呼吸ができるかと同じぐらい日常すぎて難解だ。
 次に簡単なほうだが、秘訣は被写体を愛すること、被写体と恋愛すること、大好きになること。そうすれば、相手のどんな細かいことも美しく見えたり、よく気が付く。なにもこれは相手が異性とは限らない。風景でも、物でも、お祭りでも、動物でも同じだ。好きといことは最高の被写体を見る感性だと思う。

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よく、うちの子供をかわいく撮ってください!とか、我が家のワンチャンをかわいく撮ってくださいと頼まれる。それが実は一番つらく難しい。そのような時に僕は次のように説明する【半分言い訳 笑】
「お母さんが撮るよりも、ぼくはお子さんを上手に撮ることはできます。ただ残念ながらお母さんが撮るよりも、お子さんをかわいく撮ることはできないです。なぜならお母さんに比べて、僕はお子さんを愛していないので、難しいです。」そう説明する。
どんなに露出があっていても、良いライティングであっても、お子さんがお母さんにしか見せない表情がある。それは僕には撮れない。撮ることが不可能。これは風景でも同じ。その場所が大好きで通っている、つまり土地と相性が良い。すると自然も生き物、科学や物理では説明できない、奇跡の一瞬を見せてくれる。

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オーストラリアを撮っていると奇跡の一瞬にしばしば出会う。だが依頼の仕事で行くロケ地では、奇跡の一瞬は少ない。特にロケ先で「なんかここは自分と相性が悪いな」と感じる場所は、奇跡どころか予定していた撮影ですらぎりぎりになることが多い。だから土地との恋愛も大切だ。

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あと仕事でよく不動産広告を撮る。その場合も自分が住んだらリビングをこんな風にしたいなとか、こんな街なら住んでみたいなと、やはりその街や建物を愛することから始める。こんな街なんか住みたくないな、仕事だから撮るけど二度とこないよ。そう思って撮るとなぜかその気持ちは写真に出てしまう。良くも悪くも写心だからだ。
 儲かるからこの場所を撮影しよう、あるいは、ここはインスタ映えするので、コンテスト狙いで撮影しようと思うと、上手には撮れても心に残る作品は撮れない。コンテストの審査をしているとよくわかる。上手だけどあざとい写真。「俺が撮ってやったんだぜ」というのが前面に出てしまっている。

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愛情のある写真 それが風景でも人物でもそして物でも大切。土門拳写真美術館で土門さんのお言葉で「写真家がカメラの後ろで小さく小さくなって見えない写真、それが良い」ということが書いてあった。まさにその通り。被写体を愛して恋愛しそこで見えてきたものを撮る、それが写真から写心になり、写真が上手に撮れることとなると感じる。


2020/07/14
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